日本のように高温多湿な環境下で、安定的に作物を栽培し、農業を営むためには農薬は無くてはならない存在です。
農薬だけでも適正に使えば、高い防除効果を得ることはできますが、展着剤もうまく組み合わせ使うことによって、効果を更に上げることが可能です。
しかし、展着剤と一概に言っても、種類や効果は様々であるため、目的に応じた使用をしなければ逆に効果が下がってしまいます。
今回の記事では、展着剤の一種である「アジュバント」に注目し、その上手な使い方について、議論していきたいと思います。
アジュバントとは
展着剤は大きく分類すると、以下の3種類に分けることができます。
- 濡れ性を改善させる・・・スプレッダー
- 固着性を向上させる・・・スチッカー
- 機能性を付与する・・・アジュバント
「アジュバント」は、「スプレッダー」が持つ濡れ性改善機能に加えて、”しみ込ませる機能”を併せ持った展着剤であり、”機能性展着剤”とも呼ばれます。
アジュバントはスプレッダーの機能も持ちつつ、農薬に新たな効果を付与するのでオススメの展着剤となります。
展着剤については、以下の記事をご参照ください。
アジュバントの効果は?
説明文だけ読むと、とても効果がありそうなアジュバンドですが、本当に効果はあるのでしょうか?実際に、アジュバントを加用した際の効果を、論文から検証してみようと思います。
サトイモ、アスパラガス、コネギでは効果が向上
アジュバンドの効果を検証するために今回参照したのは、こちらの論文(サトイモ、イチゴ、アスパラガス、キュウリ)とこちらの論文(コネギ)です。
結論から言うと、サトイモやアスパラガスのように薬液が付着しづらい作物については、展着剤を加用したほうが防除効果が高くなる傾向にありました。
一方で、イチゴやキュウリのように比較的に薬液が付着しやすい作物では、展着剤を加用しても効果の差は無く、場合によっては効果が低減した事例もありました。
殺ダニ剤をサトイモに散布(ハダニ)
結果・・・ 速効性が向上、しかし残効性は低下
アジュバントを加用した場合、ダニの密度低下が速くなりました。つまり速効性が向上したことになります。理由としては、アジュバンドの加用により薬液の濡れ性が向上し、ダニによくかかるようになったためと考えられます。
一方、残効性が低下した理由としては、アジュバンドの加用により表面張力が低下したことで、薬液の流亡性が向上したものと考えられます。
殺ダニ剤をイチゴに散布(ハダニ)
結果・・・スカッシュ、ニーズ → 速効性が向上、残効性が低下
アプローチBI → 防除効果低下
イチゴで上記のサトイモと同じような試験を行ったところ、スカッシュとニーズについては、サトイモの結果と同じように、速効性が向上し、残効性が低下しました。
一方、アプローチBIについては、防除が低下してしまいました。理由としては、判然とはしていませんが、展着剤の種類の違いによる濡れ性の違いが、効果に影響したのではないかと考えられます。
殺虫剤をアスパラガスに散布(アザミウマ)
結果・・・スカッシュ、アプローチBI → 効果向上
アスパラガスのアザミウマに対しては、スカッシュやアプローチBIなどのアジュバンドを加用したことにより、防除が向上しました。アスパラガスの立茎は、かなり茂っており、表面からの薬剤散布では内側まで薬液がかかりにくい状態です。
そこに展着剤を加用することで、薬液の表面張力が低下し、より内側にかかりやすくなったことで、アザミウマへの防除効果も高くなったものと考えられます。
殺虫剤をキュウリに散布(アザミウマ)
結果・・・ニーズ、アプローチBI → 速効性が向上、残効性が低下
スカッシュ → 速効性は低下、残効性が向上
キュウリは濡れやすい作物なので、上述したイチゴと同じような結果となりました。アジュバントの加用によって、アザミウマに薬液がかかりやすくなり速効性が向上したものの、表面張力の低下によって残効性は低下したものと考えられます。
ただし、スカッシュで残効性が向上した理由は判然としていません。
殺虫剤をコネギに散布(ハモグリバエ)
結果・・・アジュバント加用により防除効果向上
コネギのハモグリバエに対しては、いずれのアジュバント(スカッシュ、ニーズ、アプローチBI、ミックスパワー)を加用しても、防除効果は向上しました。一般的な展着剤であるスプレッダー(クミテン、グラミンS)を加用しても、防除効果は向上しましたが、アジュバントのほうが高い防除効果を示しました。
また、まくぴかはスプレッダーに分類されるものの、アジュバントと同等の防除効果を示しました。
結論
上記2つの論文の結果を検証すると、薬液が付着しづらい作物についてはアジュバントを加用することで農薬の効果を引き上げる作用があると考えられます。
逆に付着にしやすい作物については、速効性は向上するものの、表面張力の低下によって薬剤主成分の付着量が逆に低下してしまい、残効性の低下につながるものと思われます。
また今回の論文については、害虫を対象した試験であったため、菌を対象とした場合ではまた異なる結果になると思います。
アジュバントを含む展着剤の効果的な使用方法については、研究事例が多くなく、農薬との組み合わせや作物によって効果がことなるため、過去の事例を参考にすることで、効果的にアジュバントを活用しましょう。
展着剤について、もう少し詳しく勉強したい方は以下の本をご覧ください。
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