合成ピレスロイド系農薬は、殺虫剤の一種であり、開発の歴史から家庭用にも使用されています。
この記事では、この合成ピレスロイド系農薬の特徴と効果的な使い方について紹介します。
歴史
合成ピレスロイド系の歴史は、19世紀まで遡ります。
19世紀のヨーロッパで、除虫菊の粉末に殺虫効果があることが見いだされました。
日本では、1880年代に上山英一郎氏(現在の「大日本除蟲菊株式会社」の設立者)が、除虫菊の一種であるシロバナムシヨケギク(Pyrethrum)の本格栽培を始め、家庭用の蚊取り線香として利用しました。
一方、除虫菊の殺虫成分”天然ピレトリン”は蚊遣りには有効だったものの、農業場面で使用するには、分解が速かったりと効果が不安定でした。
しかし、日本の研究者はピレトリンを農業分野でも使えるよう研究を重ね、その結果、ピレトリンの効果を残しつつ、安定性も増した合成ピレスロイドを開発しました。

機能的特徴
神経に作用
- ピレスロイドが昆虫の体内に取り込まれると、神経軸索の表面にあるナトリウムイオンチャネルに作用します。
- チャネルが常に開放状態となり、軸索表面に存在していたナトリウムイオンが神経内部に流入します。
- すると、昆虫は異常興奮状態に陥り、痙攣や麻痺を引き起こし、やがて死に至ります。
多くの害虫に効果
アブラムシやカメムシなどの吸汁性の害虫や、イモムシやケムシなどの害虫にも幅広く効果があります。
また、ハダニにも効果がある薬剤もあります。
接触毒性と食毒性
合成ピレスロイドは昆虫に直接かかっても、薬剤がかかった葉を食べても、速やかに体内に取り込まれます。
早く長く効く
体内に取り込まれたピレスロイドは、速やかに神経に作用し、効果を発揮します。(速効性)
また、分解や耐雨性も高く、作物にかかった薬剤は長く残ります。(残効性)
忌避効果
高い殺虫効果が特徴の合成ピレスロイドですが、害虫が嫌がる効果も持ち合わせています。
ピレスロイドがかかった部分を害虫は嫌がり、あえて近づこうとはしなくなります。
いわゆる忌避効果であり、殺虫剤散布後しばらく虫を寄せ付けません。
主な商品
合成ピレスロイド系の主な商品は以下の表のとおりです。
有効成分の種類も多く、商品名も様々なものがあるので注意してください。
商品名 | 有効成分 |
金鳥除虫菊乳剤 | ピレトリン |
カダンK | アレスリン |
アディオン水和剤 ガードベイト | ペルメトリン |
アグロスリン | シペルメトリン |
マブリック水和剤 | フルバリネート |
スカウト乳剤 | トラロメトリン |
トレボン水和剤 | エトフェンプロックス |
サイハロン | シハロトリン |
バイスロイド | シフルトリン |
ロディー | フェンプロパトリン |
毒性
昆虫には速やかに高い効果を示しますが、人の体内では代謝されてしまうため、蓄積される傾向はありません。
法律に従った使用であれば、人の健康への影響はありません。
注意点
害虫以外にも効く
合成ピレスロイドは幅広い害虫に効果がありますが、害虫以外の昆虫にも影響を及ぼしてしまいます。
自然界では、害虫が増えるとその天敵も増え、生息密度のバランスを自然にとります。
しかし、農薬を散布することにより人為的にそのバランスを崩してしまうと、場合によっては害虫だけが突出して増加してしまう可能性もあります。(リサージェンス)
浸透移行性はない
浸透移行性とは、根や葉にかかった薬剤が植物に吸収された後、全身に移行することです。
ピレスロイド系の薬剤には浸透移行性がないため、虫に直接かけるか、薬剤がかかった部分を摂食させる必要があります。
したがって、作物にかける際はムラがでないよう、しっかりと丁寧に散布しましょう。
おすすめの使い方
合成ピレスロイド系のポイントは、様々な害虫に効き、残効性があることです。しかし、浸透移行性が無く、リサージェンスのリスクもあります。
これらの特性を活かすおすすめの使い方としては、以下のとおりです。
- 多くの害虫に効果があることから、複数種の害虫が発生したら使用する。
- 残効性が長いため、今後農薬を散布できないタイミングや散布したくない場合に使用する。
- 多用するとリサージェンスが起きてしまうため、切り札的に使用する。
もちろん、上記以外の時に使用しても問題ありませんが、効果的に使うのであれば、使用する時期やタイミングを押さえておくと、より効果的に害虫対策ができると思います!
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