殺菌剤の一種である「ストロビルリン」系殺菌剤は、幅広い対象病害と高い効果を兼ね備えていることから、農業現場では主要な薬剤として使用されています。
1995年のストロビーの登録を皮切りに、各農薬メーカーから様々なストロビルリン系農薬が販売されています。
今回の記事では、そのストロビルリン系殺菌剤のそれぞれの違いについて、ご紹介します。
この記事は、少しでも皆様のお役にたてると幸いです。
ストロビルリン系の特徴
細胞の呼吸系を阻害する
ストロビルリン系の薬剤は、病原菌に取り込まれると、菌の呼吸(エネルギー生産活動)を司るミトコンドリアに作用します。
すると、ミトコンドリアによる呼吸経路が遮断され、エネルギーが生産できなくなり、病原菌もそのまま死滅に至ります。
高い防除効果と広い対象病害
ストロビルリン系の一種である「ストロビーフロアブル」の登録作物・病害は59作物102病害と非常に多く、多くの作物の病害に対して効果があることがわかります。
※ストロビルリン系の特徴については、以前書いた下記のブログを参照してください。
8つの成分の比較
2023年2月時点で販売されている主な8つの成分について、その特徴をご紹介します。
クレソキシムメチル(ストロビー)
ストロビルリン系殺菌剤の先駆けとなる薬剤。1970年代から研究が開始され、日本では1995年に登録されました。
浸達性(成分が葉の表から裏に移動する効果)があるほか、ペーパーアクション作用(ガス効果)もあることが特徴。
「ストロビーフロアブル」と「ストロビー”ドライ”フロアブル」では登録内容が異なるので、購入の際は注意してください。
参考資料 http://www.acis.famic.go.jp/syouroku/kresoxim-methyl/kresoxim-methyl_01.pdf
アゾキシストロビン(アミスター)
1998年登録。浸透移行性を有する。
単剤(アミスター10フロアブル)のほかにも、混合剤が多い(アミスターオプティ、アミスタートレボンなど)。
参考資料 http://www.acis.famic.go.jp/syouroku/azoxystrobin/azoxystrobin_01.pdf
メトミノストロビン(オリブライト、イモチエース)
1998年登録。
稲のいもち病をメインターゲットとした薬剤。
いもち病に対して予防効果と治療効果を有する。
参考資料 http://www.acis.famic.go.jp/syouroku/metominostrobin/metominostrobin_01.pdf
ファモキサドン(ホライズン、ゾーベック)
2000年登録。べと病と疫病に高い効果。
予防効果のみで治療効果はない。
単剤での流通はなく、混合剤のみが販売されている。
参考資料 http://www.acis.famic.go.jp/syouroku/famoxadone/famoxadone_01.pdf
トリフロキシストロビン(フリント)
2001年登録。ブドウうどんこ病、リンゴうどんこ病、リンゴ黒星病に特に優れた効果。
植物のワックス層と親和性が高く、散布後速やかに吸収されるため、耐雨性と持続性に優れる。
参考資料 http://www.acis.famic.go.jp/syouroku/trifloxystrobin/trifloxystrobin_01.pdf
ピラクロストロビン(ナリア、シグナム)
浸透移行性を有する。
単剤での流通はなく、主にボスカリド(SDHI系殺菌剤)との混合剤が流通している。
参考資料 http://www.acis.famic.go.jp/syouroku/pyraclostrobin/pyraclostrobin_01.pdf
ピリベンカルブ(ファンタジスタ)
2011年登録。浸達性と浸透移行性を有する。
既存のストロビルリン系(ストロビーやアミスターなど)の耐性菌にも効果を示すほか、薬害リスクが低い。
参考資料 http://www.acis.famic.go.jp/syouroku/pyribencarb/pyribencarb_01.pdf
マンデストロビン(スクレア)
2015年登録。
菌核病に高い効果があるが、べと病や疫病には効果がない。
浸透移行性を有する。
既存のストロビルリン系(ストロビーやアミスターなど)と比べ、薬害リスクが低い。
参考資料 http://www.acis.famic.go.jp/syouroku/mandestrobin/mandestrobin_01.pdf
まとめ
1995年に初のストロビルリン系となる「ストロビー」が登録されて以降、さまざまな商品が開発されてきました。
ストロビルリン系は卓越した効果があるものの、耐性菌の発生リスクが高く、現に多くの病害において耐性菌が報告されています。
一方、農薬メーカーも研究をすすめることにより、既存のストロビルリン系に耐性がある菌に対しても効果がでるような新剤の開発・登録もされています(ファンタジスタやスクレア)。
耐性菌のリスクはあるものの、広い防除スペクトラムや卓越効果を有することから、効果的に使用することで、農作物の病害防除の基幹剤として使用することをおすすめします。
ただし、繰り返しになりますが、耐性菌の発生リスクが高いため、連続での使用や多回数の使用は控えましょう。
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