殺虫剤の成分の一つである「ジアミド系」殺虫剤は2007年の登場以降、現在までに5種類の商品が販売されており、開発が進むにつれて対象害虫など拡大など使いやすい殺虫剤へと進化しています。
最初に販売された「フェニックス(フルベンジアミド)」はチョウ目のみを対象とした薬剤でしたが、それ以降の剤では、少しずつ進化しながら開発が進み、現在では5種類の成分が販売されています。
今回の記事では、そのジアミド系の特徴と効果的な使い方、現在販売されている5成分の違いについてご紹介します。
昆虫の筋肉に作用する
昆虫の筋肉に作用
ネオニコチノイド系や合成ピレスロイド系といった多くの殺虫剤は、昆虫の神経に作用し、虫を異常興奮させることで死に至らしめますが、ジアミド系は昆虫の筋肉に作用します。
ジアミド系農薬が昆虫の体内に取り込まれると、筋細胞のリアノジン受容体に作用し、カルシウムイオンを異常放出させます。すると、昆虫の筋肉は異常収縮を引き起こし、やがて死に至ります。
IRACコードによる分類は”28”です。
チョウ目に高い効果
世界初のジアミド系殺虫剤「フルベンジアミド(商品名:フェニックス)」は、低濃度でもチョウ目(ヨトウやシンクイムシなど)に対して優れた効果を発揮します。
チョウ目幼虫に対しては、若齢幼虫には高い効果を示すことはもちろんのこと、大きく成長した老齢幼虫に対しても高い効果を示します。
その後に開発された後発のジアミド系は、チョウ目に高い効果を示す他、ハエ目やコウチュウ目などにも効果が付与されています。
ミツバチ、天敵への影響は少ない
チョウ目を始めとして、ハエ目やコウチュウ目など様々な害虫に効くジアミド系ですが、ミツバチやカブリダニといった天敵への影響はほとんどありません。(一部剤を除く)
また、哺乳類の筋組織には全く影響を及ぼしません。
効果的な使い方
- チョウ目に優れた効果があることから、ヨトウやシンクイムシなどが発生する時期には基幹剤として使用する。
- 残効も2〜4週間と長いため、薬剤使用回数を減らしたり、散布間隔を広げることもできる。
- ミツバチに影響がないことから、ミツバチを使用している最中でも使用することができる。
- 天敵への影響も少ないため、リサージェンスの心配もなく、天敵を活かした防除を行うこともできる。
5つの成分比較
2022年3月時点で販売されている5つの成分について、その特徴をご紹介します。
フルベンジアミド(フェニックス)
ジアミド系殺虫剤の先駆けとなる薬剤。日本で開発され、2007年に登録されました。
残効性が高く、茎葉散布の場合4週間程度効果が続きますが浸透移行性はないため、生育中期以降に使用すると効果的です。
フェニックス顆粒水和剤とフェニックスフロアブルでは登録内容が異なるので、購入の際は注意してください。
参考資料 https://jppa.or.jp/archive/pdf/61_05_40.pdf
クロラントラニリプロール(プレバソン、サムコル、フェルテラ)
フェニックスに続き、2009年9月に登録された薬剤。
フェニックスと同じようにチョウ目に対して高い効果を保持しつつ、浸透移行性を付加させた薬剤です。浸透移行性があるため、土壌に処理すると根から吸収され全身に移行し、全身で効果を発揮します。
チョウ目の他、コウチュウ目、ハモグリバエ、ヨコバイの一種にも効果があります。
また、残効性は茎葉散布で2週間程度、灌注処理で4週間程度が期待できます。
参考資料 http://jppa.or.jp/archive/pdf/63_11_51.pdf
シアントラニリプロール(ベネビア、ベリマーク、エクシレル、パディート、プリロッソ)
2014年に5商品で展開された薬剤。
プレバソン、サムコルと同様に浸透移行性が高い薬剤です。残効性も茎葉散布で2週間程度、灌注処理で4週間程度が期待できます。
チョウ目、ハエ目、コウチュウ目、コナジラミ、アブラムシ、アザミウマと幅広く効果があります。なお、エクシレルについてはコガネムシにも登録があります。
(チャバネアオカメムシには効果がありません。)
参考資料 http://jppa.or.jp/archive/pdf/68_12_72.pdf
シクラニリプロール(テッパン)
2017年12月に登録された、果樹・茶に特化した薬剤。
茎葉散布のみの登録となっており、残効性は3週間程度期待できます。
チョウ目、ハエ目、コウチュウ目、カメムシ目、アザミウマ目に効果があり、特にチャバネアオカメムシやコガネムシに効果があるのは他の薬剤には無い特徴です。
ミツバチにやや影響があるため、ミツバチ使用時の散布は控えましょう。
参考資料 https://jppa.or.jp/archive/pdf/72_07.pdf#page=65
テトラニリプロール(ヨーバル)
2020年1月に登録された、現時点で最も新しいジアミド系の薬剤。
特徴としては、1つの商品(ヨーバルフロアブル)で野菜や果樹など多くの作物で登録があることです。
チョウ目、ハエ目、コウチュウ目、カメムシ目、アザミウマ目など幅広に効果があります。
浸透移行性もあります。
まとめ
2007年にフルベンジアミドが登場して以降、現在までに5種類のジアミド系が販売されています。最初はチョウ目のみに効果的でしたが、開発が進むにつれて対象害虫も拡大している傾向にあります。
また、後発の剤ほど、先発剤との差別化を図るため、各メーカーで商品に特徴付けしていることがわかります。
各薬剤の特徴について表にまとめましたので、ご参考にしてください。
成分名 | 商品名 | 浸透移行性 | 対象害虫 | 特徴 | 登録年 |
フルベンジアミド | フェニックス | 無し | チョウ目 | チョウ目に高い効果 残効が長い | 2007年 |
クロラントラニ リプロール | プレバソン サムコル フェルテラ | 有り | チョウ目 コウチュウ ハモグリバエ ヨコバイの一種 | チョウ目に高い効果 浸透移行性が有る | 2009年 |
シアントラニ リプロール | ベネビア ベリマーク エクシレル パディート プリロッソ | 有り | チョウ目 ハエ目 コウチュウ目 コナジラミ アブラムシ アザミウマ | 浸透移行性があり、 対象害虫も多い | 2014年 |
シクラニ リプロール | テッパン | ー | チョウ目 ハエ目 コウチュウ目 カメムシ目 アザミウマ目 | 果樹・茶に特化 チャバネアオカメムシにも 効果がある | 2017年 |
テトラニ リプロール | ヨーバル | 有り | チョウ目 ハエ目 コウチュウ目 カメムシ目 アザミウマ目 | ヨーバルフロアブルは 多くの作物で使用できる。 浸透移行性があり、 対象害虫も多い。 | 2020年 |
展着剤と組み合わせると更に効果的に
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