シャインマスカットは種が無く、皮ごと食べられるという品種で絶大的な人気と知名度を誇る品種です。種を無くして、なおかつ粒を大きくするためには、ジベレリンという植物ホルモンを処理しなければなりません。
一方、このジベレリンの働きをサポートする役割として、「フルメット」という薬剤も使用されることが多いです。この「フルメット」とは商品名ですが、成分名は”ホルクロルフェニュロン”と言い、合成された植物ホルモンです。
天然の植物ホルモン”サイトカイニン”と同じような働きをし、主に細胞分裂を促進させます。
つまり、「フルメット」を処理することにより、細胞分裂が活発になり、果粒肥大につながるということです。
「フルメット」を濃い濃度で処理すると、より肥大効果も得ることができ、見た目も立派なブドウをつくることができます。しかし、デメリットとして濃度が濃いほど、皮が厚くなり、食感が悪くなるという事実もあります。
今回の記事では、この「フルメット」の使い方(時期と濃度)について、論文を引用しながら考えていきたいと思います。
このブログが皆様のお役にたてると幸いです。
「フルメット」のシャインマスカットにおける登録内容
シャインマスカットは”欧州系2倍体品種”ですので、作物名もこの部分を見ます。
効果 | 倍率 | 使用時期 |
花穂発育促進 | 1~2ppm | 展葉6~8枚時 |
着粒安定 | 2~5ppm | 開花始め~満開前 又は 満開時~満開3日後 |
無種子化、果粒肥大促進 | 10ppm | 満開3~5日後 (落花期) |
果粒肥大促進 | 5〜10ppm | 満開10~15日後 |
試験①満開時の「フルメット」濃度の違いによる食べやすさの影響について
試験条件
・満開時のジベレリン25ppm処理時にフルメットを0、2、5、10ppmの4パターンで加える。
・2回目のジベレリン処理は25ppmとし、フルメットは加用しない。
調査項目
・収穫果実の食べやすさを調査
結果
果粒の物性
・(満開時にフルメットが)5ppmと10ppmの時に歯切れが悪い
果粒の剥皮性
・(満開時にフルメットが)0ppmと2ppmは同じ結果で、濃度が高くなると悪くなる
官能評価結果
・(満開時にフルメットが)10ppmが最も悪く、ついで5ppm。2ppmと0ppmは同じ評価。
試験②「フルメット」を使用する時期の違いによる果実品質の差について
試験条件
・開花前(展葉6〜8枚目)にフルメット2ppmを果房に処理する。
・満開時にジベレリン25ppmにフルメットを3、5、10ppmの3パターンで加える。
・2回目のジベレリン処理は25ppmとし、フルメットは加用しない。
・対照は、開花前のフルメット処理無し、満開時にジベレリン25ppm+フルメット3ppm、2回目のジベレリン処理は25ppm、
調査項目
・収穫した果実の果肉の硬さ、皮の硬さ、食感、食味を官能試験
結果
果肉の硬さ・果皮の硬さ・食感
・満開時のフルメットを10ppmにすると、評価が悪くなる。
・5ppmと3ppmでは、対照と差がない。
食味
・濃度が高い方が評価が悪くなる傾向はあるものの、統計的な差はない。
今回の結果では、満開時のフルメットを10ppmにすると果肉や果皮が硬くなり、食味が悪くなるという結果になりました。一方で、5ppmの場合は3ppmの場合や対照区との差はありませんでした。
考察(フルメットの適切な使い方は?)
満開時のフルメット濃度が…
→高いほど、食感の低下といった食味の評価が下がる。
→0ppm〜3ppmぐらいので濃度差であれば、食感に与える影響は少ない。
→5ppmでは、食感に影響を与える場合もある。
つまり、結論としては…
→満開時のフルメット濃度は2〜3ppmが適切である。
まとめ
今回は、フルメットの処理時期や濃度の違いによる食感に与える影響を調べました。2つの試験の結果では、フルメットの処理濃度が2〜3ppmの場合、着果安定の効果も得つつ、食味も低下しない濃度と思われます。
しかし、食感は人により好みがありますので、今回の試験のほか、様々なパターンを試してみて自分なりの最適解を探していくのが良いと思います。
今回ご紹介した論文
試験① https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrj/16/3/16_287/_pdf/-char/ja
試験② https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrj/12/2/12_155/_pdf/-char/ja
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