耐性菌を出さないための農薬の選び方

病害対策

農作物の病害は、時として作物に甚大な被害を与えることがあり、これまで育ててきた苦労が水の泡となり、経済的にも大きな影響を及ぼしてしまいます。

病原菌は農薬に対して耐性を獲得する場合もあり、耐性菌が発生してしまうと、これまで使用していた農薬が使えなくなるほか、対策遅れによる被害の激甚化農薬選択の選択肢が狭まってしまうといったデメリットもあります。

一度耐性菌がでてしまうと、以前の状態に戻すことは難しいため、耐性菌を発生させないことが重要です。

今回の記事では、僕が普段耐性菌について気をつけていることをご紹介します。

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耐性菌が発生する理由

ここでは植物病原菌の多くを占めるカビ(糸状菌)の耐性獲得について、簡単に説明します。

植物病原菌は自然状態であれば、農薬に対して感受性があるため、農薬に触れると死滅してしまいます。

しかし、菌は自然の状態で、偶然ある農薬に対する耐性を獲得した個体が現れることがあります。とはいえ、全体の中ではごく少数であるため、集団としては農薬に対して感受性を示します。

しかし、同じ農薬を連続で使用していると、わずかに残った耐性菌の割合が徐々に増加していき、優占状態になると、「農薬が効かない」といった現象が現れ、耐性菌の問題が表面化します。

耐性菌の3つのリスク

①殺菌剤リスク

農薬(殺菌剤)は、その作用により多くの系統に別れ、同一系統でも様々な商品が販売されています。それぞれに特徴があり、べと病に特化した薬だったり、幅広い病原菌に効く薬だったりと様々です。

それと同じように、農薬の系統によっては、耐性菌が発生しやすいものとそうでないものがあります。

たとえば、QoI系(FRACコード11)やMBC系(FRACコード1)の薬剤は、耐性菌が発生しやすいとされています。

FRACコードとは、Fungicide Resistance Action Committee(FRAC:殺菌剤耐性菌対策委員会)が、農薬の系統ごとにつけた番号のこと。同じ番号の農薬であれば、商品名が異なったとしても同じ系統であることがわかる。

FRACコード一覧

これらの薬剤は、QoI系であれば病原菌のミトコンドリアの電子伝達系を阻害し、MBC系では病原菌の細胞分裂の紡錘糸形成を阻害することで病原菌の増殖を抑制しますが、この作用が部分的であるため、菌の方も部分的に耐性を獲得してしまうと、薬の効果がなくなってしまいます。

つまり、”耐性菌が発生しやすい” ということになります。

一方、ジチオカーバメート系(FRACコードM3)やビスグアニジン系(FRACコードM7)は、作用部分が多数あるため、耐性を得るためには同時に多数の耐性を得る必要があります。

すなわち、”耐性菌が発生しにくい” ということになります。

②病原菌リスク

病原菌の中には耐性菌が発生しやすい種類があります。

実験室や遺伝子レベルで、耐性菌が発生しやすいかどうかを判別する手法はないため、過去の事例を参考にリスク評価を行っています。

べと病菌や灰色かび病菌は、耐性を獲得している事例が多いことから耐性菌発生リスクが高いとされています。

一方、菌核病や土壌病害については耐性菌リスクが低いとされています。

③栽培リスク

病原菌は自然状態で偶然耐性を獲得し、農薬の多用や連用によって密度が高くなります。病害が多発し、病原菌が多数いる状態下で薬剤散布を行うと、耐性菌が残る可能性も高くなります。

また、病気がでやすい環境で栽培することでも、耐性菌が発生する可能性も高くなります。

このように、栽培環境によっても耐性菌の発生リスクが高くなる場合もあります。

ぼくが耐性菌を出さないためにしていること

①病気がでにくい環境にする

病原菌が少ない状況であれば、必然的に耐性菌が発生する確率も低下します。

ぼくの場合、ナシでは黒星病が発生しづらい品種を選んで栽培することで、病気そのもののリスクを低下させています。

また、ブドウでは雨除けをすることで病気をかなり抑えることができます。

②予防を念頭にした薬剤散布

病気が発生しづらい環境を整えたとはいえ、まったく病気がでないということはありません。

そのため、病気が発生する前に予防的に農薬散布を行っています。

3月ごろから収穫後の10月まで、月3回程度農薬を散布することで、病気の発生を未然に防ぐことができています。

③薬剤リスクのコントロール

最後に、使用する薬剤の選択に気をつけています。
先述したように、耐性菌が発生しやすい農薬もあればそうでない農薬もあります。

耐性菌が発生しやすい農薬は得てして高い効果がありますので、多用したくなるのですが(しかも、値段もそんなに高くはない!)、そこをグッと我慢して年2〜3回程度の使用に制限しています。

使うタイミングとしては、病気に感染しやすい時期だったり、梅雨前だったり、病気のリスクが高くなるときに使用するようにしています。

また、耐性菌が発生しやすい農薬とそうでない農薬を混ぜて使用することで、薬剤リスクを低下させることにも気をつけています。

このように、使用する薬剤の選択を少し考えるだけでも耐性菌のリスクは低下させることができます。

最後に

作物が病気になっていると、それを抑えようと強い農薬を散布したくなるものです。一時的には、それでしのぐことはできると思いますが、耐性菌が発生してしまうと、これまで効果があった農薬が効かなくなってしまったり、使用できる農薬の選択肢が減ったりと、結果的に自分の首を締めることになってしまいます。

実際に耐性菌が発生したことが理由で病気が蔓延し、大損害が発生した事例もあります。このような事態にならないためにも、今回の記事を参考に、耐性菌の発生リスクをコントロールし、持続可能な農業生産を目指しましょう!

参考資料

農薬ごとのガイドライン集(農薬工業会)

殺菌剤耐性菌対策(農薬工業会)

ちゃんた

農業系の大学と大学院を卒業し、10年以上農業関連の仕事をしています。
これまでの経験や知識を活かして、皆様のお役に立つ情報をご提供していきます。
家庭菜園〜本格的な農業に関すること、自分自身の家庭菜園での副業についても記事にまとめています。
技術士(農業部門)の資格保有。

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